医療制度改革が看護師に与る影響とは、看護師の未来を語る

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医療、看護、介護を取り巻く状況は、常に変動しています。
国の予算、法律改正、厚生労働省の方針などです。実感がないと言う方も多いかもしれませんが、看護師の働き方や業務内容もかなり大きく左右されています。

まずは、約25年前からの現在までの流れを、ざっと振り返ります。

えっ!65歳以上は医療費無料?
介護保険が無い時代、どうやって生活していたの?

という感じです。40~50代以降の看護師は「懐かしい!」と共感し、若い方には「こんなことがあったのか」と驚いてもらえればいいなと思います。
今後検討されている医療制度改革が、私達看護師に与える影響について解説していきましょう。

65歳以上は医療費無料!1973年老人医療自己負担無料化へ

高齢者の患者さんのイメージ写真
1973年までは、健康保険扶養家族の高齢者の自己負担割合「5割」、国民健康保険加入高齢者の医療費自己負担割合「3割」という現在とあまり変わらない負担割合でした。

ところが、老人医療費自己負担分を老人福祉法で負担することが決定され、老人の医療費は無料となったのです。今では考えられないことです。
漫才のネタのようですが、病院の待合室で「○○さん、今日来てないけど病気かな?」という会話が飛び交うほど、老人は病院に行き放題でした。そして病院も儲かっていました。

1973年は老人保健法、老人福祉法が制定された「福祉元年」と位置付けられていました。老人保健施設、老人センターが各地に設立されていきました。時の首相は田中角栄氏です。

無料化から10年、老人医療費が激増!段階的に自己負担額アップへ

やはり、無料ではやっていけませんでした。

今ではとっくに超高齢社会ですが、この頃から、日本の社会は「未曾有の高齢化社会に突入する」という危機感を持つようになってきました。

やっぱり老人からも医療費を徴収しよう。という方針に転換されましたが、1983年から始まった老人医療費定額負担は、非常に少ない額で抑えられていました。
徴収する、というよりは「少しだけ下さい」という感じです。
外来通院1ヶ月400円、入院治療1日300円(2ヶ月限度)です。

外来に通い放題の実情はほとんど変わりませんでした。だって月400円の定額プランですよ!

そこから段階的に引き上げられていき、1997年(平成9年)9月からは高齢者の自己負担を外来通院1日500円(1ヶ月4回までの制限あり)、入院1日1,000円(食費別)へ増額されたのです。これ以降も段階的に変化しています。

この頃はまだ、後期高齢者という概念はありませんでした。入院病床も、急性期を除いては看護師配置基準、入院日数の細かい制限もありませんでした。総合病院では、外科病棟で手術を受ける患者と、長期入院の寝たきりの高齢患者が同室、という光景が見られました。

増え続ける老人医療費!2000年、満を持して介護保険制度が開始された

ついに介護保険法が制定され、2000年に介護保険制度が始まりました。

単純に言うと、国は「医療処置がいらない老人が大量に入院しているから老人医療費がスゴい。介護だけの人は、国民から徴収する介護保険料で賄っていこう。老人福祉法廃止する」と考えたわけです。

現在は、介護対象者も在宅移行を強く推進していますが、その当時はまだ施設入所中心の考えでした。しかし、私達現場で働く看護師は、介護保険制度の開始に、とても明るいものを感じていました。

医療者は「病院は医療に専念できるようになる、老人はもっと快適な環境に移れる」と希望を抱いたものです。40歳以上の人たちは、新たな介護保険料の徴収が始まったことに文句を言っていましたが。実際、考えたほど明るい見通しではなかったことを、すぐに思い知らされるようになります。

はっきりとしたエビデンスはありませんが、筆者の実感では、この頃から本格的な褥瘡予防策が展開され始め、褥瘡予防用の高機能マットレス体圧測定が実施されるようになってきたと思います。

病院は、高齢者を介護施設に退院させたい。しかし褥瘡があれば断られる。といった実情が褥瘡予防策を加速させたのは皮肉なことだと思います。

7対1入院基本料、看護師配置基準が創設されたことの衝撃とは

7対1入院基本料のイメージ写真過去30年で、病院経営、看護師達にもっとも衝撃を与え、管理者を悩ませたのが「7対1入院基本料」「看護師配置基準」の創設です。
7対1入院基本料とは、入院患者様7人に対して、常時看護師1人以上を配置することです。

2006年度の診療報酬改定において、保険請求収入の基準となる一般病棟看護師の配置基準が改定されました。7対1入院基本料、看護師配置基準は最も厚い人員配置です。

今でも…

  • あなたが辞めたら7対1の勤務組めなくなるから
  • 7対1ギリギリだから休みはあげられない
  • 産休明けはいつ帰ってくるの、早くして

といった看護師長の鬼のような言葉を受け止めている看護師は多いでしょう。

7対1の導入にあたって、メリットと言われてきたことは、3点あります。

  • 患者は手厚い看護を受け、療養環境が改善される。
  • 看護師は、人数が増えることによって過重労働から解放される。
  • 入院基本料の大幅なアップによって増収となる

本当に、これらは叶ったのでしょうか?そして看護師は楽になったのでしょうか?

7対1看護師配置基準は、看護師争奪戦の始まり

ギリギリでも7対1を取れた病院は、ひとまずラッキーでした。

しかし、もともと慢性期疾患を対象とした中小病院は10対1、13対1、15対1といった配置基準が普通です。いきなり7対1にすることは到底無理でした。配置基準が15対1未満の場合は、この制度改革依然と比較し、入院基本料3割減と大幅減収となりました。大きな打撃を受け、人材確保が困難な病院は閉鎖に追い込まれていきました。

7対1を確保したい病院、維持したい病院は、看護師待遇の改善、新卒者の誘致、人材紹介会社の利用などの人材獲得を展開し、中小の病院から大病院に看護師が転職する傾向が強まり、さらに中小の病院を苦しめることになっていきました。

中小病院の生き残りは、介護施設への転身と専門性の獲得

働く看護師のイメージ写真中小の病院は生き残りをかけて展開していきます。

前述した介護保険法制定で、高齢者の介護環境は明るくなると思われていました。しかし、実際には特別養護老人ホーム、老人保健施設の病床数は不足し、病院にも入れない自宅でも看れない高齢者が、中小の病院に入院する事態になりました。

介護保険で制定される施設は多様化し、特別養護老人ホーム、リハビリテーションをメインにした老人保健施設以外にも、小規模多機能高齢者住宅、サービス付き高齢者住宅、グループホームなどが設立されました。

また、在宅医療の推進により、訪問看護ステーションや往診専門診療所の設立も推奨されるようになりました。中小の病院は、これらの施設を併設し、在宅患者を支えることで時代のニーズに対応しています。

7対1看護師配置基準をキープする難しさ、本当に看護師は楽になったのか

7対1看護師配置基準の病棟に勤務している看護師の皆さん。厚い人員配置で楽になりましたか?ちょっと意地悪な質問ですね。

7対1看護師配置基準の病棟師長は常に頭を悩ませています。一人が産休に入ると、一人が辞めると言い出すと、一人が病棟移動になると、かろうじて7対1をキープしている均衡が崩れてしまう、ギリギリの組織も多いのです。管理者にとって7対1は楽なことではありません。

看護師の皆さんにはおなじみの、看護必要度は7対1看護師配置基準と密接な関係があります。平成18年度の診療報酬改定によって、入院基本料算定の基準として導入されました。7対1病棟では、毎日看護必要度を評価することが義務つけられ、重症度の項目が高い患者が占める割合によって、入院基本料が変更されるシステムになっています。

つまり、重症度が低く手がかかりにくい患者を集めて7対1看護師配置基準にしてもあまり儲からず、重症度がより高い病棟に入院基本料が多く支払われる、ということです。

入院期間が長くなり、慢性化した患者さん、リハビリテーション目的で入院している患者さん、ADLが完全に自立している患者さんは看護必要度A・B・C項目のいずれも0点です。

持続点滴をしている、心電図モニターを装着している、シリンジポンプを使用している、緊急入院から2日以内、化学療法中、医療用麻薬の使用、輸血中、手術当日翌日、このような処置を複合的に行っている患者さんで、なおかつ入院期間が短い方が高得点をたたき出します。

結果的には、7対1看護師配置基準の病棟は忙しい、ということになりますね。

驚いた!国は7対1の病床数を減らす方向に転換、どうなる看護師

病院のイメージ写真診療報酬2016年度改定では、7対1看護師配置基準病棟を削減し、段階的に10対1に転換できるような例外措置を整備していくこととなりました。

ここまで読まれた看護師の皆さんは「血が出るような努力して取った7対1を減らしたいとは、どういうことよ?!」と憤慨するでしょう。特に看護師師長さんは激怒しそうですね。

実は、ハッキリと「減らす」とは明言していません。しかし、重症度、医療・看護必要度の判定ルールが見直され、入院患者の在宅復帰率の基準を見直すことによって7対1を維持できない病棟が増え、結果的に減少するということです。

モニタリングや処置などのA項目と、患者の状況などのB項目のうち、「A項目2点以上かつB項目3点以上」という看護必要度基準を満たしている患者の割合が15%以上いなければ、7対1を申請できません。

この割合を25%に引き上げると言うのですから、記事を読んでいる方の中にも「私のところは7対1を維持するのは難しい」と感じる方もいるでしょう。

7対1看護師配置基準をキープする病棟はますます忙しくなる

「A項目2点以上かつB項目3点以上」という看護必要度基準を満たしている患者の割合を25%以上に保つ。これは7対1病棟がさらに忙しくなることを表しています。

7対1看護師配置基準の人員数をギリギリで満たしている病院「1人辞められても困る」という病院は、重症度が高い上、急性期からの転入受け入れと慢性期病棟根の転出に追われ、さらに在宅復帰支援を推進していく必要があります。

考えただけで忙しさに目がくらみそうになりますね。

国は7対1の病床数を減らす方針を打ち出し、基準を満たさない病棟は10対1への段階的な転換を促していくようです。

私の働く病棟は10対1になるから忙しくなくなる!と喜んだ看護師さんちょっと待って下さい。

7対1看護師配置基準の病棟により重症度が高い患者さんが集まり、在院日数短縮のため医療依存度が高いまま、慢性期病棟や在宅、施設に移行する。7対1看護師配置基準の病棟で働く看護師だけではなく、全体的に忙しくなりそうですね。

超高齢社会で看護師に何が出来るか、何をすべきか、看護師の未来は

医療器具のイメージ写真老人医療費の増大に伴い、国は、高齢者は病院から介護施設へと言いました。施設が足りないことが分かると、介護施設から中間施設と通所介護へと言いました。そして、最後にはなるべく入院しないで、介護施設にもなるべく入らないで家にいて下さいと言っています。

DPCやクリティカルパスを導入し、予定通りさっさと治療や手術を受けて、早く家に帰ってください。と言っています。

私達看護師には何が出来るか、何をすべきか。ただ現場が忙しい、給料が上がらない(10対1に降格すれば病院は減収となります)と嘆いていても始まりません。

在宅診療、訪問看護、地域連携・病診連携、訪問リハビリテーション、薬剤師による在宅管理など、自宅で療養するために必要な部門について、国は支援しています。病院で勤務している看護師の皆さんも、ぜひ在宅療養を支えるシステムや仕事についてして欲しいなと思います。救急、病棟、介護施設、訪問看護の看護師が連携して情報を共有することが必要です。

7対1看護師配置基準の病棟から、医療依存度が高いまま自宅に帰る患者さんを、訪問看護師に引き継ぐこと。介護施設の看護師が、病院から受けた患者さんを施設で看取ること。
看護師が出来ること、やるべきことは「どんな場所に居ても患者さんに最善の看護を提供する事」ではないでしょうか。

まとめ

医療制度改革の詳細は、厚生労働省のホームページで確認して頂きたいと思います。

少子高齢化、財政難と明るくないニュースが多く、医療、看護、介護業界は頻繁な法改正に振り回されています。しかし、時代を生き抜くために必要な改正なのでしょう。

看護師がケアする患者さんは減ることはありません。どんな場所にいる患者さんにも最善の看護を提供する、そんな気持ちで一緒に頑張りましょう。未来に向かって!

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