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せん妄とは、一言で表現すれば「意識のくもり」です。
思考がまとまらず、意識障害が起こっている「状態」であり、疾患の名前ではありません。

一般的には、集中治療室や術後状態で起こりやすい傾向にありますが、同じ年齢、同じ性別、同じ病態、同じ環境に置かれた患者さんでも、せん妄が起こるかどうか、起こり方も様々です。

せん妄は看護師を大いに悩ませます。特に夜勤帯でせん妄患者さんを担当したことがある看護師さんは、共感されると思います。

この記事では、せん妄で困る事せん妄を予防するための看護、せん妄を起こした患者さんへの看護について解説していきたいと思います。気軽に読める記事ですので、最後までお付き合いください。

看護師を悩ます、せん妄の実例を見てみよう

せん妄の症状の出方は人それぞれです。起こる場所や患者さんの背景も多様です。せん妄の実例を見てみましょう。

胆石胆嚢炎で、腹腔鏡下胆のう摘出術を全身麻酔で受けられた70才の男性患者Aさん。術後1日だけ集中治療室に入り経過観察し、翌日には一般病棟に戻る予定になっています。普段は日常生活動作は自立しており、認知症もなくしっかりしています。ただ、入院は初めてで手術への不安を感じ、緊張していたとご家族から聞いています。

手術室から帰室して、麻酔が覚めた時点では「手術、終わったんだね」「ちょっと痛いな」と普通に話していました。

手術から帰室し7時間以上経った時、心電図モニターの異常音に気が付いた看護師がベッドサイドに飛んでいくと、末梢静脈路(点滴)を自分で抜いて、裸足でベッドサイドに立っているAさんを発見しました。歩き出そうとするため、看護師が「危ないですよ!ベッドに寝ましょう」と静止しましたが、「うるさい!上司に向かって何を言う!」「お前なんかクビにしてやる」と看護師を振り払います。ここは病院の集中治療室で、胆石の手術受けた後だと説明しても、全く会話が成り立ちません。

病院で働く看護師さんには、珍しくもなんともない光景でしょう。Aさんは「自分が入院中である、手術を受けた直後である」という状況を認識しておらず、静止する看護師を自分の部下と思い込んでいるようです。

せん妄状態は、言葉をかけても状況が理解出来ず、興奮状態で大声を出したり、医療者や介護者に暴言暴力をふるうこともあります。ベッドの下に子犬がいる、ベッド柵に鳥がとまっている、などの幻覚を見ることもあります。

せん妄は、集中治療室で起こるものと思われがちですが、一般病棟でも施設でも在宅でも起こります。

 

せん妄は直接原因、促進原因に分けて考えよう

せん妄を直接原因と促進因子に分けて考えていきましょう。

せん妄の直接原因

直接原因とは、疾患と薬剤の影響と言えます。

せん妄を引き起こす疾患は多様です。一例を挙げると、呼吸器疾患であるCO2ナルコーシス、低酸素血症、脱水による電解質異常、肝機能異常、徐脈性不整脈による脳虚血状態などが挙げられます。

せん妄を引き起こしやすい薬剤は、睡眠導入剤や向精神剤です。まれにパーキンソン病治療薬などでせん妄が起こる場合があると言われています。睡眠導入剤を飲んでからの中途覚醒(途中で目が覚める)で、逆行性健忘(自分では自覚していないまま起きてウロウロしたり会話したりすること)が起こることは有名です。

せん妄の促進因子

促進原因とは、環境の変化や不安感、ストレスなどです。

せん妄の実例に挙げたAさんは、環境の変化や不安感が強く作用してせん妄が出現したと考えられます。環境の変化は、必ずしも入院だけで起こるわけではありません。高齢の方が、息子夫婦と同居するため引越した事、短期施設入所(ショートステイ)を経験した事、入院中に病室移動した事、等によっても起こります。

せん妄は、直接原因、促進原因どちらか一方では無く、原因が複合的に作用して起こることがほとんどです。また、ハッキリとした原因が分からないことも少なくありません。

せん妄患者が起こしやすいトラブル例

いくつか代表的なトラブルを紹介しましょう。

せん妄が起こると、転倒転落が起こりやすくなる

転倒に注意!

病院と施設勤務の看護師が最も恐れているものの一つに「患者さんの転倒転落事故」があります。ベッドから転落した状態で発見される、ベッドサイドやトイレで転倒した状態で発見される患者さんの事を考えるだけでゾクッとしますね。

せん妄を起こしている患者さんは、Aさんの様に「歩行は看護師の許可がいる状態、ベッドで安静にする必要がある」「歩くと転倒する危険性が高い」という認識がすっぽりと抜け落ちている事が多いのです。

そのため、いくら「歩かないで、起き上がらないで」と言葉で注意したところで理解できないのです。中には、足の骨折手術を受けた直後にせん妄を起こし、立ち上がってしまうこともあります。

せん妄が起こると、通常時に比べて転倒転落や外傷のリスクがグンと高くなります。

せん妄が起こると、末梢静脈路やドレーン類のトラブルが起こりやすくなる

術後つけられるチューブ類

術後患者さんは、末梢静脈路や各種ドレーンチューブに繋がれていることがほとんどです。実は、このチューブ類による拘束感がせん妄の原因になります。

各種ドレーンとは、消化管手術後の腹腔ドレーン(肝床部、ウィンスロー孔、ダグラス窩、Tチューブ等)、胸部手術後の胸腔ドレーン、脳外科手術後のドレーン、整形外科手術後の創部ドレーン、膀胱内留置カテーテル、PTCDチューブ、胃瘻チューブ、腸瘻チューブなど様々です。人工肛門パウチや気管切開チューブもこれらの範疇と言えます。

せん妄を起こしている患者さんは、「邪魔なものを取り去りたい」という思いに取りつかれています。チューブを自己抜去すると危険という認識は薄くなっていますので、Aさんの様に末梢静脈路をためらいなく抜いてしまうことがあります。

ドレーン類の自己抜去は命にかかわる問題です。例えば、胸腔ドレーンを自己抜去されると、緊張性気胸を起こし呼吸困難を起こし、直ちに生命の危険にさらされます。せん妄の兆候が見られたら、チューブ類の自己抜去の予防が必要になってきます。

せん妄が起こると、食事や睡眠がとりにくくなる

患者への食事を食べなくなる

せん妄を起こしている患者さんは、すぐに眠ってしまう、刺激に対する反応も鈍い、動かない、といういわゆる嗜眠の状態にはなりにくいです。逆に、精神的に興奮し、刺激に過剰に反応する状態になりがちです。

落ち着きなく、廊下を徘徊したり、病室とトイレを行ったり来たりすることがあります。特に昼夜逆転で、夜間徘徊し昼間ウトウトすることも特徴です。食事を取る必要性を認識しなくなり、看護師が用意した食事や水分には手を付けなくなることもあります。

食事や水分を摂らないから脱水になり点滴を行う、点滴チューブがストレスになりせん妄が改善しない、という悪循環が発生することもあります。

せん妄が起こると、療養や健康管理に必要な食事や睡眠が取れなくなることが問題です。

せん妄が起こると、暴言暴力をふるうことがある

夜になると凶暴化!

せん妄を起こしている患者さんは、普段の様子から想像がつかないほど攻撃的になることがあります。毎日接している家族すら認識しなくなることもあります。

看護師さんがケアしようとして叩かれた、つねられた、ということも少なくありません。私は、せん妄の患者さんに顔を叩かれて眼鏡が飛んで割れてしまったことがあります。

せん妄患者さんに接した家族のショックは測り知れません。いつもは優しいお父さんが「お前は誰だ!殺される!」と叫んでいる姿はショッキングです。在宅患者さんがせん妄を起こすと、同居している家族の介護労力は膨大です。

せん妄が起こると、看護師の忙しさは倍増

せん妄が起こると、看護師の忙しさは倍増し、疲労感も倍増します。

せん妄で自分の置かれた状況が判断できない患者さんは、転倒転落、チューブ類の自己抜去、離院、暴言暴力など様々な危険行動を起こすリスクがあるため、それらを予防するために大変な労力を要します。

その一つは「観察」です。ずっと見守っている必要があり、目が離せないということです。

夜間ゴソゴソと動き回る患者さんを、交代で見守ることは大変なパワーが要ります。看護師2人夜勤体制であれば、看護師は休憩も取れないことになります。看護師3人以上の夜勤でも、1人はせん妄患者さんにかかりきりですから、必然的に忙しさは増します。

せん妄は、患者Aさんの様に急にチューブ自己抜去、離床、暴言暴力が予兆なく起こることもあります。また、複数の患者さんがせん妄を起こすことがあります。

看護師さんにとって、せん妄は絶対に遭遇したくない状態と言えるでしょう。

せん妄を予防するために看護師が出来ることとは

せん妄を予防するために看護師さんが出来ることを考えてみましょう。

看護師はせん妄をできるだけ予防しよう

最近は、入院オリエンテーションに「せん妄について」を説明する病院が増えています。これも看護師さんが出来る、せん妄予防の取り組みの一つです。

せん妄は、環境の変化や日付時間感覚の欠如によって起こりやすくなることが知られています。「ここはどこ?今はいつ?私は誰?」と混乱してしまうのです。

入院中であっても、普段見慣れた時計やカレンダーを持ってきていただくようにしましょう。目にすることで、日常を思い起こさせる物を見ん周りに配置することで、混乱を予防することができると言われています。高齢者の方であれば、家族写真やお孫さんと一緒に撮った写真を飾っておくもの良い効果があるようです。

大切なことは、なるべく環境を変えない事です。看護師は、患者さん本人、ご家族にせん妄が起こり得る可能性を説明した上で、予防策を取ることが出来ます。

看護師はせん妄の兆候を察知しよう

せん妄は、突然に激しい暴言暴力から始まることは少なく、兆候が見られることがほとんどです。せん妄の兆候として代表的な言動を取り上げてみます。

  • 会話をしていてなんとなくかみ合わない
  • 病院に入院しているという認識が無くなっている
  • ソワソワして落ち着きがなくなってくる
  • 同じことを何度も繰り返して訴えてくる
  • 家に帰りたい、帰ります、という言動がある
  • 入院中であるにも関わらず、荷物をまとめて帰ろうとする
  • 執拗に不眠を訴えてくる

せん妄の兆候を早めに察知することは重要です。せん妄の兆候を察知することは、安静が必要な状態でベッド柵を乗り越えて転落事故が発生したり、ドレーンや末梢静脈路の自己抜去が発生する危険性を予防することに繋がります。

患者さんとの何気ない会話や、仕草から普段と違う様子を感じ取れるのがベテラン看護師と言えるでしょう。

せん妄を起こした患者さんの看護ケアについて考えよう

せん妄を起こした患者さんへの接し方を考えていきましょう。

せん妄を起こしている患者さんは、会話による説得はほとんど不可能のようです。

歩ける状態では無いにも関わらず、「帰る!」と主張する患者さんに「足の筋力が弱っているので歩けない、帰ってもらっては困る」と説得しても、聞き入れないどころか「お前は誰だ!偉そうに」と怒りの火に油を注ぐことになります。

ではどうすれば良いのでしょうか?以下に参考となる答えを容易しました。

せん妄患者さんの訴えは、否定しないように受け答えする

入院中の患者さんが「ここは病院なんかじゃない」と言い出したとしましょう。看護師は「病院に決まっているでしょう、昨日手術受けたことも覚えていないの?」と言い返したくなると思います。

しかし、せん妄患者さんに言葉による説得はほぼ不可能です。頭ごなしに言い分を否定すると、せん妄状態が悪化する可能性があります。

例えば「では○○さんは、ここはどこだと思いますか?」「ここがどこかちょっと外の景色を見てみませんか?」といった様に、患者さん自身が「あ、ここは病院か」と気づけるようにアプローチしていきましょう。

せん妄の兆候がある患者さんの周囲の危険物を除去する

せん妄の兆候がある患者さんの周囲を環境整備し、危険物を除去することは看護師さんの役割です。

危険物とは、果物ナイフやハサミとは限りません。絶飲食の患者さんがせん妄を起こし、入れ歯を付けていた水、花瓶の水を飲んでしまった、立ち上げって転倒して床頭台の角で頭を打ってしまった、ということもあります。

看護師さんは、環境整備を行い、危険物を除去しておく必要があります。

せん妄の兆候は医師に報告し、適切な薬剤投与をする

せん妄の兆候を発見した場合「認知症の悪化かな」と自己判断せずに、必ず医師に報告し、看護記録に残します。

適切な量の鎮静剤を使用することで、精神的に落ち着きを取り戻すこともできます。また、病気の悪化に伴うせん妄は、原因を治療する必要があります

日中は起きていられるようにサポートする

昼夜逆転や不眠は、せん妄を引き起こす原因になります。

または、執拗に不眠を訴えてくること自体がせん妄の兆候でもあります。患者さんは、昼間に起きて、夜はしっかりと眠れるようにサポートしていきましょう。

昼夜逆転している患者さんは、せん妄を起こす危険性が高いので、密な観察が必要です。

身体抑制は最小限にできるように工夫する

生命に関わるドレーンチューブの自己抜去を起こす危険が極めて高い患者さんや、離床することで転倒を起こす患者さん。看護師さんの静止に激しく抵抗する患者さん。

身体拘束は、せん妄が起きていることで発生する事故のリスク回避に不可欠とアセスメントされた時のみ許可されます。

新地拘束は、非代償的(身体抑制以外に方法が無い)、一時的(常に必要性をアセスメントし必要なくなればすぐに解除する)であるべきです。

まとめ

看護師さんを悩ます、せん妄について解説してきました。

看護師になったばかりの方は、せん妄を起こした患者さんへの対応には、大変なストレスを感じるでしょう。ベテラン看護師さんも、せん妄の兆候をキャッチできなかったと反省するエピソードもあると思います。

せん妄を起こしている患者さんは、本人も混乱しとてもつらい状況に置かれています。せん妄を早めに察知する事、せん妄によって起こる危険を回避する事が看護師さんの役割です。ぜひ、記事の内容を看護ケアに役立てて頂ければ嬉しいです。

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