公開日:

看護師の皆さんはESDと聞いてどんな看護を求められるかイメージできますか?

実は私自身、内視鏡室に勤務するまでESDという略語すら知りませんでした。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)胃癌や食道癌を、外科的に切らず、内視鏡で一括切除できる治療法です。

患者さんにとって体の負担も少なく、安全安楽に行えるとしてニーズが高まり年々増えています。

そんなESD看護のとりあえずこれだけは押さえておくと、現場ですぐに役立つポイント5つと、最近実施する施設が増えている食道・大腸ESDの看護のコツについても紹介したいと思います。

病棟勤務でESD看護を知りたい方や、内視鏡室看護に興味がある方、配属されたばかりの看護師さん、勤務経験者でもいまさら聞けないと思っている方はぜひ最後まで読んでみてくださいね。

目次

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)看護の仕事とは?

まず、そもそもESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とはなに?というところからお話しさせてください。

そもそもESDは内視鏡で癌を切除する

ESD術中そもそもESDは内視鏡で癌を切除することをです。

どこの癌に対して行われるかというと、咽頭・食道・胃、十二指腸・大腸の早期癌です。

この中でも特に多いのが胃癌、そして最近は食道・大腸癌も増えてきています

少し解剖の話にもなりますが、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)のいう粘膜下層とはどこのことでしょう?

人間の消化管壁は粘膜層・粘膜下層・筋層・漿膜(食道壁は無い)の層でできています。

ESDは基本的に一番浅い粘膜層までの癌が対象です。(これ以上深いと転移の恐れがあるためESDでは根治できません。最低でも粘膜下層のごく浅い部分までの癌が対象です。)

ESDでは、この病変のある粘膜層と、念のためその下の粘膜下層までを一緒に取り除きます

具体的な方法は、病変をマーキングし粘膜下層に薬剤を注入し、病変を盛り上げてマーキングよりも広めに粘膜を切開し、特殊な切除ナイフ(デバイスと言います)を用いて少しずつ剥がして切除します。

高周波装置を使う(電流で焼き切る)

高周波装置のイメージ粘膜下層を切る際に、電気メスの役割のデバイスを使います。

電流を流して焼き切るので、内視鏡モニター画面では通電した瞬間にピカッと光や煙も見えます。

通電スイッチは術者の先生の足元にあるフットスイッチです。

術者の近くに行く際や終了後なども間違って踏まないように注意してくだいね。

大腸ESD術前は下剤(腸管洗浄剤)でしっかり前処置

経口腸管洗浄剤

経口腸管洗浄剤(出典:Wiki)

大腸壁はひだひだにいりくんでいてカスが溜まりやすいです。

大腸ESDの場合はどの施設でも用いられている、便の性状見本シートの一番最後の状態にならないといけません。

必要に応じて医師の指示でグリセリン浣腸も追加で行い、腸管を徹底的にキレイにします

ESD術中は患者を動かさず口腔内吸引やバイタルチェックをする

静脈麻酔ESD術中患者さんは静脈麻酔で意識が無い状態です。

脱力し左側臥位の体位を保てない場合などもあり、最初にクッションでしっかり体位保持する必要があります。

また唾液も垂れ流しの状態なのでよく溜まる場合は誤嚥防止のため1~2時間毎に口腔内吸引をします。

静脈麻酔中なので、血圧・SpO2・心電図モニターでバイタルチェックをします

施設や医師の判断によりますが、血圧はだいたい10~15分間隔で測定します。

ESD術後のケアや観察項目

最後にESD術後の病棟での観察項目を説明します。

穿孔

穿孔(消化管壁に穴が開いてしまった状態)してる時に腹痛やお腹の張り、嘔気・嘔吐・悪心を訴えられます。

特に患者さんの麻酔覚醒度悪い場合は、お腹の張りに注意して観察します

出血

上部ESDの場合はタール便や術後採血でHb値が2mg/dl以上下がっていないかチェックします。

胃ESDの後は壁側の病変は特に出血しやすいのでカルテで病変部位をチェックしておきます。

手術前後の採血のHb値や、患者さんの顔色などを注意して観察します。

また、術前抗凝固剤を内服し一時的に止めてESDを行った患者さんや肝機能が悪く出血傾向にある患者さんは要注意です。

抗凝固剤の内服開始とともに術後出血する場合もあります

発熱

普通の術後管理と同じですが、抗生剤を投与し体温測定と採血で炎症反応が無いか観察します。

低血糖

絶食時間が長いので低血糖症状に注意します。

脱水

補液をしていますが、脱水による血圧低下にも注意が必要です。

ESD看護の注意すべき6つのポイント

ここからは、ESD治療を受ける患者さん・治療後の患者さんをケアするにあたり、看護師が気をつけるべきことを解説していきます。

これからESD看護を勉強する人や、実践する人向けに個人的経験を踏まえ重要ポイント6つに絞って解説していきますね。

1.ESD前には貴金属チェックを徹底

ESD中は高周波装置を使うので貴金属

金属が触れていた皮膚が火傷など起こし、重大インシンデントになります。

病棟を出る前に貴金属はすべて外し、必ず家族に預かってもらいます

貴金属類は特に思い入れの強いものや高価なものが多いので、紛失のトラブルを避けるため看護師は預からないことを徹底していた方が良いです。

外してもらうものは眼鏡・ピアス・イヤリング・ネックレス・時計・指輪(結婚指輪も)・義歯(ブリッジなどの部分入れ歯も)・湿布などの貼付剤などです。

えっ湿布も?と思われるかもしれませんが、貼付剤の中にはニトロダームやニコチネルパッチなどのように金属が含まれているものがあります

基本的にはすべての貼付剤を剥がしておくことが賢明です。

また、ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)、骨折などで体内にプレートが入っている患者さんは注意が必要です。

ペースメーカーが入っていても、業者立ち合い、短時間で終わる予定、対極板をできるだけ離した場所に貼るなどの対策でESDが可能な場合があります。

2.ESD術中のバイタルの変化と急変に注意!

ESD術中およびその直後では偶発症が起こることがあります。

看護師は患者の状態やバイタルサインを常に確認し、急変が起こった際には迅速に対応・医師に知らせなくてはなりません。

鎮静剤(セルシン・ドルミカム)、鎮痛剤(ペンタジン)使用で起こるリスク

ドルミカム(ミダゾラム)

ドルミカム(出典:Wiki)

ESD中は静脈麻酔によって全身麻酔を行います。

現在はドルミカム(ミダゾラム)をメインに使う施設が多い印象です。

経験上ですが、セルシンはせん妄で暴れたり、呼吸抑制を起こしやすい気がします。

その為、私が勤務していた病院では、ESDや他の治療でも基本的にドルミカムを使用するようになりました。

一番良くないのはセルシン+ドルミカムやセルシン+ペンタジンなど一緒に使った時だったと思います。

これもはっきりしたエビデンスに基づいた話ではないのですが、セルシン+ペンタジン、さらに高齢者などの条件が重なるとかなりの確率で強い呼吸抑制を起こしました。

だいたい、拮抗薬(アネキセート)を緊急で投与しつつ、アンビューバッグを持ってくる事態になります

内視鏡室では麻酔科医がいない中で長時間全身麻酔を行うので非常に危険を伴います。

医師は手技に没頭しモニターなんて見ていませんので、ESD中は看護師がバイタルチェックするようにしましょう!

3.ESD術中異常高血圧に注意!

ESD中、血圧が200mmHgを越える異常高血圧になる場合があります

対処として静脈麻酔を追加し深く鎮静させるか、ニカルジピンなどの降圧剤を投与します。

血圧の頻回測定(5分間隔)と心電図モニターの波形に注意します。

ESD術中の急変(出血・穿孔)時は緊急輸血を行うことも

ESD術中に太い血管が露出し出血が止まらない場合など、緊急輸血を行うことがあります

また、穿孔してしまい内視鏡的治療(クリップ)でも塞ぎきれない場合、緊急外科的開腹手術になる例があります。

4.ESDで使われる高価なスコープ・デバイスの管理

スコープは非常に高価で1本200~300万円し、修理にも数十万円かかり破損した場合報告書ものです。

これらのスコープやデバイスを管理することもESD看護では求められますので、注意点をまとめてみました。

ESD術中、患者さんにスコープを噛まれないように!

患者さんにスコープを噛まれないために、入れ歯を外し、治療時用マウスピースを使用します

勝手にスコープを片づけない!

病変をホルマリン固定後、カルテへ記録のためにスコープで写真を撮ります。勝手に片づけると怒られます。

勝手にデバイスを捨てない!

再出血に備えて止血鉗子だけは取っておきます。

本当はディスポですが、本人にのみ使用という条件で洗浄し再利用しているのが現状です。

保険適応ですがデバイスは1本4~5万円と高価なので、患者負担になるので勝手に捨てないように注意してください。

5.医師に怒られない口腔内吸引のタイミング!

ESD術中は患者さんは麻酔により、唾液も垂れ流しの状態なのでよく溜まるため1~2時間毎に口腔内吸引すると言いました。

そのタイミングを解説しますと、ベストとしては、医師が局注・剥離していないタイミングです。

つまりスコープの曇りを拭くため一度スコープを抜いたり、途中経過の撮影をしたり、胃ESDの場合胃内に溜まった水を吸引したりするタイミングです。

しかし、念のため医師にひとこと確認をとってから吸引しましょう。

6.ESDは時間がかかるので褥瘡と血栓に注意!

ESD治療は長いと十数時間もかかります。すると当然「褥瘡」や「血栓」は注意すべきポイントになります。

意外なところにも褥瘡が!!こんなふうに思ってしまうこともあるでしょう。

褥瘡対策で耐圧分散マットを術中、術後使用します。

しかし検査枕は耐圧分散のものではありません。

私の経験では、長時間のESD(約10時間)に及ぶ場合があり術中、下になっている左頬がカニューレによって褥瘡を起こしたケースがありました。

その為、必ずガーゼを挟み褥瘡予防を行うのがポイントです。

深部静脈血栓症を防ぐ

術中も長時間同じ体位でいる上に、病棟に戻ったあとも24時間安静になります。

内視鏡室でつけた深部静脈血栓症予防のフットポンプを引き続き装着しておきます。

正しく圧がかかっているか定期的に確認し、フットポンプによる合併症(腓骨神経麻痺・下肢虚血症)を起こさないように足の皮膚の血色など観察しておきます。

まとめますと、

  1. ESD前には貴金属チェックを徹底
  2. ESD術中のバイタルの変化と急変に注意!
  3. ESD術中異常高血圧に注意!
  4. ESDで使われる高価なスコープ・デバイスの管理
  5. 医師に怒られない口腔内吸引のタイミング!
  6. ESDは時間がかかるので褥瘡と血栓に注意!

気をつけるべきポイント6のうち、4~5個はESD術中の話でした。やはり長時間の治療、気を抜けませんね。

食道ESD看護(上部消化管内視鏡検査)のコツ

食道

食道(出典:Wiki)

最近は医師のESDトレーニングの充実や年々安全なデバイスが開発されていることから、穿孔しやすい食道・大腸ESDを行う施設も増えてきました。

10年前くらいは食道・大腸ESDは大学病院など一部の施設だけで、さらに熟練した2~3名のベテラン医師のみが行う高度な治療でした。

デバイスや局注剤の進化といったツールに助けられて件数が増加していると思いますが、難しい手技であることは変わりありません。

ここからは、ESDでも特に多い食道のESD看護について解説します。

先にも述べたように食道壁は薄いため、特筆すべき注意事項もありますので、覚えておいて損はないと思います。

食道ESDの特徴①食道壁は薄い!

胃壁は約7mmあるのに対し食道壁(大腸壁)は約3~4mmとほぼ半分の薄さです。

特に食道は筋層の周りの漿膜が無いのでさらに穿孔しやすいので、注意が必要です。

食道ESDの特徴②患者さん・施行医・助手に不用意に触れない!

上記のように食道壁は非常に薄いので、患者さんはもちろん術者だけでなく、局注針を扱う助手の医師に不用意に触れないようにします。

うっかり体が当たってしまって深く切ってしまったなどないように注意してください。

食道ESDの特徴③お酒に強い人が多い→麻酔が効きにくい

そもそも食道がんになる人はお酒を多量に飲んだり、お酒に強い人が多いです。

お酒に強い人は静脈麻酔が効きづらく、投与量が増えがちです。

アネキセートを投与しても覚醒度が悪かったり、帰室後麻酔による夜間せん妄を起こすことも頭の隅に入れて観察します。

食道ESDの特徴④ESD術後狭窄

術後ESDの範囲が広いほど、傷が治っていく過程で食道が狭くなることがあります。

胸痛や悪心、嘔吐、吐血が無いか注意して観察します。

狭窄した場合の治療はステロイド投与や内視鏡治療があります。

内視鏡的拡張術といい、バルーンを膨らませて広げます。

大腸ESD看護(下部消化管内視鏡検査)のコツ

続いては、大腸ESD看護について解説します。

大腸ESDの特徴①羞恥心に配慮

腸管洗浄剤による前処置で便の性状を看護師に確認されたり、肛門からの内視鏡挿入なので、肛門付近に大きく穴のあいた検査着を着用したり患者さんは恥ずかしい思いをされます。

特に女性の患者さんは検査着の隙間から露出しないようタオルで隠すなど配慮しましょう。

大腸ESDの特徴②術後2~3日経っても出血に注意!

食道同様に壁が薄いので、高周波による凝固やクリップで止血するとその処置自体で穿孔してしまうことがあります。

高周波での止血もやりすぎると、大腸壁が火傷した状態になり術後2~3日経ってから遅れて穿孔(遅発性穿孔)することもあります。

そのため大腸ESDは胃ESDよりも長めに入院期間を設定している病院が多いです。

まとめ

ESDはまだまだ新しい治療法で歴史も浅いです。

ESDなら、外科的に切るしか無かった癌が、切らずに安全に内視鏡で治せるのです。

これは素晴らしい医学の進歩ではないでしょうか!

ただし、ESDは視野も狭く非常に繊細で高度な手技が必要です。

そのESD治療を支えるESD看護もより高い専門性を求められます

ESD看護は医師を的確に多方面からサポートし、かつ患者さんの安全も守らなければなりません。

何せ内視鏡室には麻酔科医もいなければ、臨床工学技士も常駐していませんから。

看護師は何役もこなさなければなりません。

内視鏡技師資格が重要視されているのは、そういった理由からです。

患者さんの術前準備や、術中のサポート・患者管理、術後の偶発症の早期発見など、ESD看護が的確に行われなければESDの成功はありえません。

ESD看護はまだまだ覚えるべきことも多いですが、5つのポイントやコツを押さえながら徐々に経験を積んでみてください。

その知識・経験は今後もあなたの強みになっていくと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました!