病棟勤務、外来勤務、手術室等の特殊勤務、介護施設訪問看護など看護師が働く職場は多岐にわたります。
どの分野で勤務していても、忙しくない、という看護師さんにはまだお会いしたことがありません。看護師は大変忙しいのです。看護業務の忙しさの変化は、感覚的にとらえることが出来ます。例えば、
- 最近入退院の頻度が増してきた
- 訪問看護利用者さんの重症度が上がってきた
など。看護師の忙しさや働き方は、医療制度改革と深い関係があることを知っていますか?
法律の改正と看護業務は大いに関係があります。現場の看護師さんに知って欲しい事を解説していきたいと思います。
特別養護老人ホームの入所者は要介護度3以上に限定される?
介護保険法の見直しや改正は、病院勤務、訪問看護等介護関係以外の看護師には関係ないと思われていませんか?
医療制度改革の一環として、介護保険法の改正が行われています。特別養護老人ホームの入所資格が要介護度3以上に限定される、これは介護施設に勤務する職員以外にも大きな影響があります。
要介護3以上の利用者に限定された場合、現在入所している要介護度2以下の利用者は順次退所していくことになります。そのため、現時点で特別養護老人ホームに空きがあったとしても、要介護3でも介護度が改善しそうな利用者や、要介護2以下の利用者を受け入れない動きが出てきています。
病院では、急性期の治療を終えた要介護度1ないし2の患者さんを受け入れる施設が見つからない、訪問看護では在宅患者の介護度・重症度が高くなっていく、という状況が起こります。これらは、病棟勤務や訪問看護師の忙しさに直結していきます。
要介護度1,2の患者はかなり手がかかる

「もう限界や…」
要介護度1・2の患者は、要介護度3以上の患者に比べて軽症なのでしょうか。現場感覚としては、決してそんなことは無いと思います。
重度の認知症で徘徊や失認がある患者でも、身体機能に異常がなければ要介護度は高くありません。要支援の場合すらあります。
例えば消化管の検査・治療で入院中の要介護度1患者。何度説明しても忘れてしまう患者の点滴自己抜去、胃管カテーテル自己抜去、徘徊、離院行動、夜間せん妄、転倒転落に看護師が四苦八苦し疲弊することはありがちですね。
看護師は夜勤で仮眠が取れないばかりか、転倒転落、チューブ類の自己抜去等が起こりインシデントレポートを何枚書いてもキリがありません。本当に疲れてしまいます。要介護度2以下の患者も看護にかなりの労力を要するのです。
病院は在院日数を短縮する使命を課せられていますから、介護度が高い患者が転倒転落を起こし、打撲や骨折で入院日数が延長するとかなりの打撃になります。看護師は、あらかじめ決められた入院日数を超えてしまうような事故が起こらないよう、細心の注意が求められます。
少し前なら特別養護老人ホーム入所、慢性期病棟や療養型病棟に入院していたような患者さんが、在宅へ移行することによって看護師のマンパワーはますます必要になっています。
看護師配置7対1の病棟は減りますます忙しく
数年前までは、各病院が7対1病床を増床するため、看護師を募集していました。今後、7対1病床は減少していく見込みです。政府は直接的に、看護師配置7対1の病床を減らすと言っている訳ではありません。
7対1を取得できる要件を厳しくしたため、7対1を担保できる病床が減少し、10対1へ移行していきます。
7対1の病床は、ますます在宅復帰支援推進や、病床回転率を上げることを求められます。すなわち7対1の病床に勤務する看護師はますます忙しくなっていくことが想定されます。
10対1、13対1の病床が忙しくないかと言えばそうとは言えません。10対1の病棟が重症度が低い患者を受け入れるとは明言されていません。実情は、7対1病床と同じような患者層でありながら、在院日数や在宅復帰率が異なるだけになる可能性も大きいと思われます。
7対1よりも人員配置が少ない病棟だからと言って忙しくない訳ではなさそうです。勤務している病棟が7対1から10対1へ移行したにも関わらず、忙しさは現状のまま、といった現象も起こるかもしれません。
得られる診療報酬は減額され、看護師の忙しさはそのまま、ということに繋がっていくかもしれません。
在宅で療養する患者さんの重症度は高くなる
病院は在院日数を減らし、特別養護老人ホームは要介護度3以上の人しか入れないとなると、必然的に在宅療養する患者の介護度・重症度は高くなっていきます。
在宅、というと自宅だけと思われがちですが、サービス付き高齢者賃貸住宅や軽費老人ホームなどは、介護を受ける場合、在宅扱いになります。
救急外来、外来で勤務していると、リクライニング付き車いすやストレッチャーで来院される、かなり重介護と思われる患者が増えているように思います。ほとんど寝たきり状態に近い患者の胃瘻の入れ替え、処置など介護度の高そうな患者、ご家族にお会いするたびに、在宅介護は大変だろうな、と考えさせられます。
訪問看護ステーション、訪問入浴に携わる看護師の役割は重要になってきます。より重症度の高い患者に対応できる看護技術や、病院と連携する力が求められています。看取りに至るまでのメンタルケアも求められています。
医療費自己負担額の引き上げが看護師に与える影響とは
後期高齢者を含め、すべての世代で医療費自己負担割合の引き上げが検討されています。
自己負担割合の引き上げは、受診抑制に直結すると考えられています。
単純に考えて、2週間に1回外来に薬をもらいに来ていた患者が、自己負担割合が引き上げられ4週間に1回にペースを落とす、といったことが考えられます。非正規雇用やフリーターで収入が多くない方が、医療費を節約するため体の不調を我慢し、病院を受診しないことも懸念されます。
専門分野に特化した病院以外の診療所やクリニックは、外来患者数の減少、減収が起こる可能性も懸念されます。診療所やクリニックは地域医療を担う大切な存在ですが、減収により倒産してしまっては元も子もありません。
診療所やクリニックは、患者獲得のため更なる努力が求められます。専門性の獲得、往診対応などの業務拡大です。
外来業務に関わる看護師も、より専門的分野への理解を深めていくべき時代なのかもしれません。
政府の働き方改革は看護師の働き方も変えるのか
一般職は、非常勤化、業務の外部委託化が進み、今や働く人の約40%が非正規雇用となっているそうです。フレキシブルな働き方や副業、兼業を推進する「働き方改革」がすすめられています。
働き方改革は、看護師の働き方も変えるのでしょうか?
病棟は常勤看護師が8割程度、2割程度がパート看護師という構図が一般的な様です。看護師配置基準を満たすには、常勤看護師の数が重要になってくるため、常勤者が多く配置されるようです。結婚、出産、子育て、介護、または自分自身の体調などの事情で、常勤者としてフル出勤できない看護師は、退職し働くことを辞めてしまうことに繋がっていくようです。
看護師が働く現場は、どの分野も慢性的な人員不足です。看護師としての経験がありやる気のあるスタッフは、ごく短時間でも力を貸してほしいと希望しているのです。
看護師は自分の得意分野を生かして、非常勤の掛け持ち勤務をしたり、自由な時間で働けるようになっていくのではないでしょうか。例えば、内視鏡治療に精通した看護師が、内視鏡治療を行う複数の診療所に所属する、といった働き方が盛んになっていくかもしれませんね。
子育て中、両親の介護などで働ける時間に制限がある看護師も、数時間だけの勤務で活躍できる職場を見つけられる様になれば良いなと思います。
常勤で働きながら、余裕のある時間を使って非常勤で勤務し、得意分野を発揮する看護師も増えてくるかもしれませんね。
疾患予防がますます重視される時代、看護師の役割は
医療は、疾患の一次予防に重点を置いています。
一次予防に不可欠な食生活の改善、服薬コンプライアンスの維持改善、肥満の解消、運動習慣の意識付けなどは、医師や栄養士、薬剤師などと連携した看護師が大きな役割を果たしています。
病棟看護師は退院指導に力を発揮し、疾患の再発予防に努めます。外来看護師は、来院した患者に必要な生活指導をアセスメントし、入院に至る状況を回避するため介入します。
入院患者の在院日数が短縮されていく中で、入院中に十分な患者指導が達成できないこともあります。在宅に帰る患者に残された課題は、訪問看護、外来看護に引き継がれていきます。
看護師は、病棟と外来、病院と訪問看護、診療所と病院、介護施設と訪問看護、相互に情報交換し連携していくことが求められます。
疾患予防がますます重視される時代には、患者指導の充実と施設間の情報交換力、この二つが看護師に求められる課題でしょう。
診療報酬改定、小児科、産科、麻酔科や救急医療はマイナス改定されない見込み
国が表明している医療制度改革の大綱には「小児科、産科、麻酔科や救急医療等の医療の質の確保に配慮する」と書かれています。
これらの分野は医師、看護師不足と共に、地域格差が大きく問題になっている分野です。小児科、産科、麻酔科や救急医療等の診療報酬を下げない、とは明記されていませんが、質の確保に配慮するということは、マイナス改定せず優遇するということを表しているものと推測されます。
小児科、産科、救急医療で特に首都圏以外で業務に携わる看護師の数を担保し、看護の質を向上させていくことが求められているようです。
まとめ
超高齢社会で、医療、看護を必要とする患者は増える一方です。その上、医療費は増大する一方ですから、医療制度改革によって「適正化」が進められていきます。看護師に求められる役割はますます大きくなっているようです。
医療制度改革は一気に実施される訳ではなく、法律が少しずつ改正され整備されていきます。現場の看護師も、ぜひ興味を持ってニュースを見ていきましょう。日々の忙しさの変化も、納得のいくものになると思います。
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