働き方とハラスメント問題は毎日、テレビや新聞の社会欄を賑わしています。パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティーハラスメント、などハラスメント問題は細分化され、社会問題となっています。
今日は「看護師とセクハラ問題」について考えてみたいと思います。
- 看護師さんのうち何パーセントがセクハラ被害にあっているのか?
- 不快な思い、つらい思いをしている人が何人いるのか?
本当のところは分かりませんが、看護師という仕事は、セクハラ被害を受けやすい職業の様です。セクハラ問題に悩んでいる方、セクハラ問題とは無縁という方、どちらの看護師さんにも読んで頂きたい記事です。
まずは、セクハラの定義を見ていこう

好かれていないのにジロジロ見ると誤解されるニャ
セクハラは「いやらしい感じ」「嫌な感じ」「恐怖感や嫌悪感を与えてくる」といった感情は一致していると思います。しかし、セクシャルハラスメントとは何ですか?と聞かれて、パッと答えられる方はなかなかいないと思います。
厚生労働省のホームページ「職場でのセクシュアルハラスメントでお悩みの方
(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html)」から引用した、職場におけるセクシュアルハラスメントの定義は以下の通りです。
男女雇用機会均等法においては、
1.職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
2.性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
労働者の意に反する性的な言動、の具体定として挙げられているのは「性的な冗談やからかい」「食事やデートなどへの執拗な誘い」「身体への不必要な接触」「性的関係の強要」です。これらに応じないことで、解雇、降格、減給などの不利益を被ったり、不快な就業環境に置かれる事がセクハラという訳です。
実際、看護師がセクハラの被害者となった上に病院を解雇される、という酷い例はそう多くないでしょう。働く環境が不快になる、本来の能力を発揮できない精神状態に置かれる、というケースが圧倒的に多いと思います。
つまり、セクハラは受ける側が「不快」と感じた時点でセクハラなのです。
相手が不快と感じた時点でセクハラ認定
「性的な冗談やからかい」という項目一つでも、かなり広い意味合いが含まれます。
アレ?髪型変えた?その方が色気あるね、イイ感じ。と異性の上司に声をかけられたとしましょう。
髪型を変えたことに気が付いてくれて、その上イイ感じ、と言われたら単純に「嬉しい」と思う人もいるでしょう。しかし、部下の身体的変化をジロジロ見て気持ちが悪い、色気という言葉自体が性的で怖い→「セクハラを受けた」と嫌悪感を抱く人もいるのです。
セクハラは女性が加害者の場合も

(触られたりして)不快ならセクハラになるお
セクハラは男性が加害者、女性が被害者という固定概念を持っている人もいるようですが、大きな間違いです。
看護師社会は圧倒的に女性多数派、男性少数派です。セクハラの例としては、女性看護師上司が男性看護師部下に「こんなことも出来ないの?男のくせに、しっかりしなさい」という激を飛ばすことはセクハラにあたります。
男性上司から「女のくせに生意気」「女のくせに色気がない」などと発言すれば、大問題になります。女性上司から「男のくせに」と発言することも、同じくらい相手を侮蔑するハラスメントなのです。
このような言動は、受ける側が不快と感じた時点でセクハラ認定されます。
セクハラの加害者は患者さんだけじゃない
看護師が被害者になってしまう場合、セクハラの加害者代表格として、患者さんや利用者さんが挙げられます。看護師は医療・介護・看護のサービス提供者、患者さん利用者さんは顧客と言えます。看護師はセクハラをされても、ガツンと拒否しにくい立場にある、と考えられがちです。
セクハラの加害者となり得るのは、患者さん利用者さんだけではありません。同僚・上司、患者さんのご家族、医師など看護師と関わる人からセクハラを受ける可能性があります。
ここからは、セクハラ被害の実例を見ていきましょう。
患者さんや利用者さんから受けるセクハラ事例
看護師がセクハラ被害にあう確率が最も高いのが、患者さん利用者さんでしょう。
患者さん利用者さんからのセクハラは「身体的不調の訴え」を装った内容が多いのが特徴です。痛いから擦って欲しい、痒みのある所に軟膏を塗って欲しい、ふらつくので支えて欲しい、痛い所を見て欲しい等です。看護師としてのケアを要求されている以上、断りにくいのです。患者さんの訴えが、客観的に異常な執拗さでなければ、被害を訴えにくいのが特徴と言えます。
同僚や先輩から受けるセクハラ事例
看護師が同じ看護師からセクハラを受ける場面はあるのでしょうか?
近年、男性看護師と女性看護師がチームやペアで仕事する機会は珍しくありません。看護師が同僚や先輩から受けるセクハラ事例を見てみましょう。
男性看護師2年目で病棟勤務の高木さんは、最近夜勤が憂鬱です。
2年目看護師の高木さんは、指導担当の女性看護師Aさんとペアで夜勤しています。
先輩Aさんは、毎回高木さんのお弁当を作って持参し「男の一人暮らしでろくなもの食べていないんでしょ、今度食事を作りに行ってあげる」と執拗にアピールしていました。高木さんは、先輩Aさんに特別な好意は抱いておらず、手作りのお弁当を負担に感じていました。
看護師としては尊敬しているので、仕事を教えて欲しいと思っています。高木さんが「お弁当はいらない、家に招くつもりはない」とはっきり伝えたところ、先輩Aさんの態度が急変しました。
仕事に必要な情報を教えてもらえなくなり、点滴やインスリンのダブルチェックを依頼しても、無言で目も合わせません。高木さんは、一緒に夜勤すれば事故を起こすのではないかと不安に感じています。
看護師同士のセクハラ問題は、仕事上のコミュニケーションに支障をきたし、インシデントや医療過誤の要因になります。看護師高木さんの憂鬱は深刻でしょう。先輩Aさんの女性的な感情が招いたセクハラ事例です。
患者さんや利用者さんの家族から受けるセクハラ事例
訪問看護、在宅系の看護では患者さん利用者さんのご家族とトラブルになる可能性が、病院内施設内に比べて高いようです。
患者さん利用者さんからの直接的な被害ではないため、表面化しにくい事例が多いと聞いています。事例を見ていきましょう。
訪問看護師の山田さんは、70歳女性患者Cさんの訪問看護を担当しています。
Cさんは要介護5で、寝たきりの状態です。夫のDさんは同じく70代ですが、認知症も無くお元気です。DさんはCさんの食事介助、おむつ交換など介護に協力的で温和な人物です。しかし、最近は訪問看護中に「妻が寝たきりで寂しい、女性と触れ合う機会がないから」と性的な発言や、行動をされるようになってきました。
山田さんは、介護者であるDさんの精神的ストレスを受け止めなければならないと思いつつ、Dさんが身体的な接触を持とうとしてくることに嫌悪感を感じています。
Dさんからセクハラを受けていると、ケアマネージャーに訴えて訪問看護事業所を変えてもらうことも出来るでしょう。
しかし、本来看護の対象はCさんであり、看護師山田さんはCさんの継続看護をしたいと思っています。家族であるDさんとの関りに頭を抱えています。
医師から受けるセクハラ事例
看護師が受けるセクハラのうち、医師からの被害が最もストレスが高い様です。
医師からのセクハラ行為を拒否して、無視、恫喝、嫌味を言う、などの仕返しをされると仕事そのものが出来なくなってしまうからです。看護師は医師の指示の下、医療行為や看護を行います。指示系統が機能しなければ仕事にならないのは当然です。
クリニック勤務の佐藤さんは、入職してきた看護師が辞めてしまう原因は院長のセクハラ行為だと考えています。
看護師の面接は院長が実施していますが、大抵は20代独身の看護師です。院長の診察・処置を介助させるようになると、プライベートなことを聞き出そうとしたり、性的な冗談を連発しているようです。また、肩に手を回したり軽くお尻を触ったりしているようです。
佐藤さん自身は、既婚40代で院長の冗談も軽くかわせますが、若い看護師にはストレスが強いようです。
看護師佐藤さんは、新しい看護師が長続きしないことに不安を感じています。そして、院長は自分の行動がセクハラであると認識していないことが問題と感じています。医師が看護師に維持する立場に便乗し、セクハラするのは問題外です。自分の言動がセクハラに当たると認識していないこともあります。
看護師がセクハラを受けやすい理由を考えてみた

業務上、相手との距離が近すぎてしまう…
バイタルサイン測定、清拭、除毛処置、移動介助など看護師は患者さん利用者さんの身体に触れ、患者さん利用者さんは、素肌を見せる場面が多いです。
お互い着衣で、物理的な距離を保っている状態よりも、看護処置は性的な感情を抱かれやすいのかもしれません。身近さや親しみがきっかけで異性として好意を抱くことも考えられます。
患者さん利用者さん、ご家族とは、物理的な距離が近い事が要因の一つと言えます。看護師同士、医師との関係も、密なコミュニケーションが必要とされます。人間関係の近さがセクハラ問題の要因と言えるでしょう。
セクハラ被害にあったら絶対に事実を報告する
セクハラ被害にあった時は、被害にあった時の状況と感情をしっかり報告することです。
上司に「事実」と「感情」の2つをしっかり伝えることが大切です。
凄くイヤな感じがした、もう一緒に働きたくない、という感情だけ伝えても何があったのか分かりません。言われたことされたことを淡々と報告しても、なにが問題なのか伝わらないこともあります。
例として、前述した男性看護師高木さんを取り上げてみましょう。
先輩Aさんの好意を断ったら、急に態度が悪くなって仕事がやりにくくなって困っている。女の先輩はやりにくい。
このような報告では、二人が内輪もめしただけなのでは?と思われてしまいます。セクハラ問題と取られないかもしれません。
先輩看護師Aさんには指導者として仕事を教えて欲しいと思っている。毎回お弁当を作ってきたり、家にあげるよう執拗に言われてストレスを感じていたので「プライベートと仕事は区別して欲しい」と言った。
その後、必要なことを伝達してもらえなかったり、ダブルチェックをしてくれなかったりと看護師の仕事に支障をきたしている。自分としては事故を起こしそうで不安を感じている。先輩Aさんとは仕事をしたくないと感じている。
後者では、事実と感情が正確に表現されています。上司は、女性看護師A先輩からのセクハラ被害と受けとめ、対応することになるでしょう。
あなたの職場はセクハラ問題に向き合ってくれるか
セクハラ被害にあった時は、なるべく早く事実と感情を整理して、上司に報告します。
上司や職場はセクハラ被害にあった看護師の訴えを真剣に受け止め、対策を取ってくれるでしょうか。
- 看護師だったらちょっとお尻を触られるくらいしょうがないでしょう。我慢しなさい。
- 先輩看護師の機嫌を損ねるようなことをしたんでしょう。早く仕事を覚えなさい。
- 患者さんやご家族の悩みを上手に受け止めるのが看護師でしょう。
- セクハラを受けるのは、あなたにスキがあったからでは?
きちんと報告しても、このような反応が返ってきたら絶望してしまいます。セクハラ被害を受けたショックや憂鬱さに加えて、上司や職場に対する不信感を抱いて、楽しく仕事できるはずがありませんね。
自分の職場がセクハラ問題をしっかり受け止め、解決に導いてくれる職場かを見極めてください。
まとめ
看護師とセクハラについてじっくり考えてみました。いかがでしたか?
- セクハラ被害にあった時は、上司、職場に「事実」「感情」をしっかり伝える。
- 看護師がセクハラを受けやすい要素を把握しておく
- 上司、職場がセクハラ問題に向き合ってくれるか見極める
仕事上必要なコミュニケーションや接触が、セクハラ被害に繋がってしまうのは皮肉なことです。看護師が誇りをもって仕事を続けられるよう、セクハラ被害には毅然と対応していきましょう。
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